2005年12月09日号

虫はもういない


昭和30年代、散歩人が小学生の頃、ある日学校で、突然先生から“チョコレート”が配られた。「これは虫下しです。一度に食べないで…」などという先生の話などどこかへ飛んで、家に帰る山道で、ドキドキしながら包み紙をむき、1かけら食べたらまた1かけらと、とうとう全部食べてしまった記憶だけが残っている。


   当時はほとんどの人のお腹に虫がいた。「虫が知らせる」「虫がいい」「虫が好かない」…人々は昔から“腹の虫”と共生してきた。で、宿主様は、良くないことは虫のせいにしていろいろ言って来たのだろう。寄生虫の駆除が当時の文明国の条件。健康に悪いと、みんなが思っていたのである。ところが、現代になって「回虫は健康のために必要だ」という研究結果も出て論議を呼んでいる。


   例えば、寄生虫学者として知られる医学博士の藤田紘一郎氏は、鼻炎やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患が急増したのは1960年代からで、その時期は駆除で日本人の回虫が激減した時期にぴったり符合すると言う。日本ではじめて花粉症患者が確認されたのは1963年。それが急激に増え、ぜんそくなども30年間で3倍になった。藤田博士は、回虫がいるとどうしてアレルギーにならないかの医学的メカニズムも解明している。


   今、世界各国の研究者が「行き過ぎた清潔志向」に警鐘を鳴らしている。清潔な生活が免疫を強くする機会を奪う。薬の発達が今度は細菌・ウイルスを強くする。藤田博士は「子供と外へ出て、泥んこ遊びをしてください。抗菌グッズや抗生物質の乱用をやめてください」、腕白で少々“汚い”子供たちが強く成長する、と言う。山道であの虫下しチョコを食べてしまった後、散歩人にも虫はいなくなってしまった。

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