2006年01月13日号

人知りそめしほほえみ


田中昌人さんの研究では、大人になる過程で、人間には「新しい発達の力」が4度生まれ、成長してゆく。生後第1の発達の力は、通常4ヵ月頃に自分から微笑みかけると共に生み出される。田中さんはそれを「人知りそめしほほえみ」と呼ぶ。あやされて笑うという受身の関係から、自分から人間関係を結ぼうとする主体的な力が、赤ちゃんの内部で準備され始める(平成15年9月26日付本紙)――人間発達学の権威として大きな功績を残した京都大学名誉教授・田中昌人氏が昨年11月に逝去され、その死が惜しまれている。享年73歳。


   人間がどのように成長していくか、綿密な観察と研究を積み重ね、そこから導き出された発達の診断法は乳幼児検診などにも使われている。本道でも昨年まで講座を続け、育児や保育の現場に携わる多くの人々に慕われた。その著書「乳児の発達診断入門」(大月書店)で、「赤ちゃんは、不思議な、そして美しい多くの発達の謎に、その身を幾重にも包んでいるかのようです」と、成長の感動を述べている。


   生後間もなくから、母乳を飲んで満足しながら眠りに移っていく時に、人間だけが、美しい生理的微笑みを見せる。「天使のほほえみ」「無垢の微笑」…“新生児微笑”といわれる謎のほほえみ。生後4ヵ月頃には、瞳の様子が変わり、周囲を見回して、「ミツケタ!」という表情を示し、自分の方から人に対して微笑みかけたりする。「人知りそめしほほえみ」だ


   まだ見ぬ世界に向かって微笑み、世界を見てまた微笑む。人間の成長はほほえみから始まる。そのほほえみを生み出す本能が人を信じる心とすれば、それを裏切るような世の中であってはならない。田中先生はそう言い続けたような気がする。合掌。

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