2006年07月28日号

恋の馬鹿力


中学生の頃、毎朝始業時間ぎりぎりで登校し、遅刻の常連だったやつが、いつからか急に1時間も早く登校するようになった。どうやら、バス時間の関係で早く登校する女子のことが好きになったらしい…悪友たちが彼を冷やかすのを見て、初めてわかったのである。彼の早起き、恋の早朝登校はしばらく続いたが、その後どうなったのかはわからない。


   高校生になってからだが、恋を契機に急に成績が上がったのもいる。散歩人の母校は元男子校だったから、男女共学になっても女子は1クラス2~3人程度。それも男子より成績優秀な才女ばかりだったが、友人がその1人に惚れてしまった。彼はそれまで中の下くらいの成績だったのだが、猛烈に勉強し始めて彼の手にあったギターの本は参考書に変わり、そのうち、図書館で彼女と2人で勉強している姿を見かけるようになって、彼の成績が「コイの滝登り」ではないだろうけど、あれよあれよと上昇していくのに目を見張った。


   当時の高校生は、他人の恋路を冷やかすような幼稚さもなく、友人たちはそれなりに応援していたのだが、その変身ぶりと恋というものの力に驚嘆しつつ、そういうチャンスも器量もない散歩人などは、ずいぶんうらやんだ。結局、彼はそのまま一流大学に受かった。運のいいやつもいたのである。


   ただ、いい方向に変わるばかりではないようで、えっ、と思うほどまじめなやつがいつの間にかいなくなって、しばらくしてから他校の女子高生と駆け落ちして退学したと聞いてびっくりしたこともある。


   「恋は思案の外(ほか)」というけれど、恋というものは、人を思ってもみない力で突き動かしてしまうものなのだろう。散歩人は同級生の早朝登校や、優等生への大変身のような現象を「恋の馬鹿力」と、嫉妬心半分で揶揄(やゆ)してきたが、できれば自分が大変身してみたかった少しもの悲しい青春だったのである。


斉藤和義 CD

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