2006年07月28日号

K婆ちゃん・S婆ちゃんと避難袋


K婆ちゃんは、私が嘱託医をしているグループホーム(以下GH:定員27名)の最高齢、今年6月で97歳になった。短期記憶障害と認知機能低下が見られる認知症。昼食後には、いつも同じユニットに住む93歳のS婆ちゃんと居間の小上がりに腰かけて昔話に花を咲かせている。お互いに自分の娘時代の話をしているのだが、傍で聞いていても話がかみ合っているとは思えない。毎日のように同じ話を繰り返しているので、次に何の話をするのか私には予想がつく。


   長崎県のGHの火事で7名の入居者が死亡した事故があった。K婆ちゃんの住むGHでは、毎年6月に消防署の協力を得て避難訓練を行っている。その際に「入居者に避難袋を作ろう」という話が持ち上がった。避難袋が介護者によって作られ、ペットボトルに入った水と非常食のカロリーメイト、スリッパを入れて入居者に配り、自分のタオルを加えるように言った。


   K婆ちゃんは、満州からの引揚者で戦後の苦難の時期を自力で切り開いてきた。自分の避難袋にタオルを入れ、更に下着を2替わり、石鹸を2個、自分の写真を入れ、加えて避難袋に入れた物品を記載したリストも入っていたそうだ。その後、写真が預金通帳に替わったり、帽子に替えられたり…リストはその都度書き換えられている。過去の記憶が現時点で絶対に必要な物品を選択したとしか思えない。


   一方、K婆ちゃんの相棒のS婆ちゃんだが、避難袋を配布した翌日に介護者が中身を調べたところ、カロリーメイトが無くなっていることに気づいた。自室のゴミ箱にカロリーメイトの包装紙が捨てられていたことから判断すると、食べてしまったに違いない。これにもビックリ、カロリーメイトが食べることの出来るものと判断した眼力に頭が下がる思いがした。何故か、認知症の人は記憶力や認知力を失った替わりに、鋭い直観力を身につけているようだ。


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