2006年08月11日号

自己イメージと現実との乖離


Mさんは70歳台後半の女性である。今年1月まで高血圧症と高脂血症のため定期的に通院していたが、しばらく通院が途絶えていた。呂律が回らず足元もおぼつかない。昨年1月に倦怠感を訴え、点滴を希望して初診したときのことを思い出した。数種類のトランキライザーを服用しており、今回の来院時と同じような状態だった。


   診察室の椅子に座らせて話を聞こうとしたが、なかなか言葉が出てこない。舌を診るとカラカラに乾いて脱水状態…とりあえず点滴を行い、その最中に現在までの詳しい経過と日常生活の話を聞かせてもらった。同居していた息子さんが転勤になり、突然に夫との二人暮しになった。「夫が急に倒れたら」「私が夫の面倒を見られなくなったら」という不安感…あるとき玄関の段差で躓いたのをきっかけに不安感が増し、以前に通っていたメンタル・クリニックを受診したそうだ。


   Mさんの話を聞くと、自分自身が思い描いている「あれもできるし、これもできる」という自己イメージと現実との間のギャップを感じさせる。一般的には加齢とともに体力の衰えを受容して自己イメージも変化させる。だが、中には自己イメージは若いまま、体力の衰えという現実との乖離に難儀する人もいる。竹内孝仁先生という精神科医が自己イメージと現実との乖離に基づく反応を「葛藤型→回帰型→遊離型」という過程として提唱している。


   Mさんの場合は、葛藤型の時期に分類される。体力の衰えを上手く自己イメージに反映することができず、思い通りの行動が出来たときは喜ぶが、出来なかったときの落ち込みが大きい。Mさんに対しては、「気休めに過ぎない」点滴を行う時間を利用して、私と婦長で「誰にでも訪れる現実を受け入れる勇気の大切さ」を話す。漫才師・横山エンタツの川柳「明日の夢 与えて夕陽 沈み行く」を思い出した。


エコポイント対象 テレビ

トラックバックURL:

« 加齢黄斑変性症③前兆を見逃さない | TOP | 消火器にご用心 »

[PR]SEO対策済みテンプレート