2006年11月03日号

野球


今年の春からだ。帰宅すると野球放送が入っていることがだんだん増えていた。妻と娘が日本ハムの応援をしている。その頻度は秋になるとますます増え、プレーオフにはほとんど毎試合になった。「新庄、カッコ良すぎ~!キャー」なんぞとやっている。日本シリーズになると、ほとんどテレビの前が占拠され、オヤジ(散歩人)が裏番組をチェックしようとしてちょっとチャンネルを変えでもしたら、猛烈な抗議が巻き起こるのであった。これではまったく、巨人ファン時代の昔の散歩人の姿ではないか。森本がどうとか、小笠原がこうだとか、金子がこうとか言い合っている。日本ハムの選手の名前は散歩人以上に知っている。「う~む、オヤジギャルにオヤジカカアか」と内心独(ひと)りごちたが、口には出せなかった。それでいて「スクイズって何あに?今のはバントでしょ?」などと聞く。オヤジはズッコケる。


   この光景はどこかであった。そうだ、おととし、去年、そして今年の駒苫の甲子園だ、そう思い当たった。特に今年は「ハンカチ王子vs田中君」の名勝負で、女性たちの野球熱が急上昇した。その一方で、快進撃を続ける日本ハム。しかも、新庄、森本、稲葉・・・と役者がそろい、シブ~イ実力派の小笠原も、“かわいい”ダルビッシュもいる。まるで舞台を見ているような面白さ。女性たちがほっとくわけがない。かくて、「カワイイ!」と「カッコ良すぎ~!」の、甲子園の時と同じ大声援は続いた。


   かつて野球は、激しく、しかし寡黙(かもく)な男たちの世界で、観客はプレーの情熱と技のぶつかり合いだけに沸(わ)いた。それが、「新庄とその仲間たち」はカエルやスパイダーマンやゴレンジャーのかぶりもので登場したり、高さ約50メートルの札幌ドームの天井から舞い降りて観客を楽しませた。日本シリーズでは、投手交代の時に、新庄・森本・稲葉の外野3人衆が寄って人差し指を天に突き出すマスゲームのようなパフォーマンスで客席を喜ばせた。数年前までなら顰蹙(ひんしゅく)を買ったであろうこうしたサービス行為も、ごく自然に観衆に受け入れられ、しかも場内を盛り上げこそすれ、決して決戦の熱気と緊張感を損なうことはなかった。女性たちはその虜(とりこ)になった。


   日本一のかかった第5戦、前代未聞だろう2台の“新庄カメラ”が一挙手一投足を追う。ストライクが入る、アウトにする、味方の選手の一つ一つのプレーすべてにガッツポーズをとって喜ぶ新庄の姿は、さわやかで印象的だった。腰も太もももアキレス腱もぼろぼろの満身創痍。足を引きずって走り、打席に立った。実は、身体の状態が想像以上に悪く、チームの優勝と来期のために、試合には自分が出場しないから若手を使って欲しいとヒルマン監督に直訴していたという。


   試合終盤、万感胸に迫ってか新庄の涙は止まらなくなった。さまざまな誤解を呼んだ派手なパフォーマンスの数々は、すべて観客サービスとチームのことを考えての底抜けに明るくて楽しい、しかし必死の演出だったという。それを知る選手たちは、優勝が決まって真っ先に新庄を抱きしめに走った。札幌ドームの4万2000の観客も、最高73・5%という驚異的視聴率(札幌地区)を記録したテレビの前の観客も、「宇宙人」新庄の真実の姿を、目にしっかり焼き付けた。精一杯生きる元気と感動をもらった。だから、あきらめずに叫ぶ。新庄、やめるなんて言うなよ。戻って来いよ!!

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