2007年02月16日号

悪性サイクル!


Aさんは70歳代前半の男性、私は彼の胃の中を25年間にわたり毎年2回ずつ内視鏡で観察してきた。彼の胃に異変を見つけたのは平成12年春。胃体上部後壁に小さな潰瘍性病変が認められた。大きさのわりに粘膜ヒダの集中が顕著で、周辺の組織も硬さが目立った。当然、悪性を疑い数個の組織を採取して病理学的検査を依頼した。結果はグループⅢとのこと。


   胃から採取した組織を顕微鏡で観察した結果をⅠ~Ⅴの5段階にグループ分けする。Ⅰは正常組織、Ⅴは明らかな癌組織、Ⅳは癌組織の疑いが濃厚との基準でⅣ以上を癌として取り扱う。Aさんはそれ以後も年2回の検査を欠かさずに受けた。ある時は潰瘍性病変が消失して平坦だが少し引き攣った良性潰瘍が治癒したような瘢痕、またある時は明らかな潰瘍を認めて周辺の粘膜ヒダの先端が棍棒状に肥大したり、互いに癒合したりした悪性所見を示していた。だが、組織検査は常にグループⅢのまま。


   当クリニックは今年2月で設立7年になった。Aさんの胃の潰瘍性病変はこの7年間、いろいろな様相を見せてくれた。ある時は大人しい飼い猫のような姿、ある時は凶暴な猛獣の姿、このような胃癌の七変化を悪性サイクルと呼んでいる。胃粘膜から分泌される胃酸によって潰瘍が作られ、成長した癌細胞が脱落することを繰り返す結果、進行癌にならずに早期胃癌のまま留まるというものである。


   ところでAさんだが、昨年夏に私の紹介状を持って某病院を受診したが、癌という事実を受け入れられない気持ち、待ち時間の長さ、空腹によるイライラのため棄っぱちになり、検査の予約もせず年末まで放置。年末に実施した再検査の結果説明や友人たちの説得によって、今年の1月末にようやく手術の運びとなった。癌の一部が粘膜筋板を超えて深部に侵入し、内視鏡による粘膜切除は不適と判断されて開腹手術となった。まずは一件落着!

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