2007年06月22日号

J子さんに先を越された話


6月初旬に定期的に通院しているJ子さんが、左背部から側腹部にかけての痛みを訴えて来院した。腹部や背部を診察しても皮膚に変化は認められず、左背部と側腹部に圧痛が認められた。尿検査で尿潜血反応が陽性だったため、尿管結石を疑って泌尿器科受診を勧めたところ、「友人から聞いた話からすると、私の症状は帯状疱疹のものだと思うのですが…」とJ子さん。結局、泌尿器科を受診したが、異常なしとの診断。


   それから数日間、鎮痙剤や鎮痛剤の内服、血液検査、胸部や腹部のCT検査なども行ったが、原因に関する確定的な情報は皆目得られない。「やっぱり、私の言っているとおり、帯状疱疹じゃ?」と急かせるJ子さん。私も幾分はその方向に傾いたが、確定的な証拠がない。J子さんは不満な様子だったが、最終的な私の結論は背筋や側腹筋の疼痛と診断して湿布薬を処方した。私も一応は「医学者」という科学者の一員なので、証拠なくしての結論には抵抗があるのだ。


   しかし、米国の家庭医学書には「水疱が出現する前に帯状疱疹と診断するのは難しいですが、体の片側だけに痛みが漠然と帯状に出ることが手がかりになります。侵される神経によっては、盲腸、腎臓結石や胆石、大腸炎で起こる痛みと似た痛みが生じます」と記載されていて、J子さんの症状にピッタシだ。だが、皮膚病変の出現以前にJ子さんの主張を確定する手段はない。


   6月8日、J子さんが来院してからちょうど1週間目、「出ましたよ、出ましたよ」とのJ子さんの声…診察すると、確かに左背部に典型的な帯状疱疹の皮膚病変が見られた。私は「これは確実に帯状疱疹ですね」と告げたのだが、J子さんの眼は「だから最初から言ったでしょ!」と。私は「今回はJ子さんに完全敗北です。今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします」と言って頭を下げ、J子さんは「そのように心得ます」と言って大笑いした!

トラックバックURL:

« お詫び | TOP | 細胞から病気を治す医薬品の話No.157 »