2007年08月24日号

No.82


毎度の事ながら、原稿を書けないで苦しんでいたら、娘から「林真理子さんでさえ、期日までの原稿が遅れるらしいよ」と言った。それは私への励ましか、慰めか?何事も追い込まれないとできない性分の私は、いつもこうやって試験勉強然り、子供の頃からギリギリ追い込まれる迄机に向わなかった。自慢にもならないが、今だにその病気は治っていない。まして、今日のこの34度という猛暑の中で「名文なんてかける訳がないっしょ!」と開き直っている。


   暦はお盆の入り。私もお墓参りに行かなければならない…と思ったら、昨年のお墓での不思議な体験を思い出した。


   中山家のお墓は平岸霊園にある。区画整備された小高い丘の中にあり、私は毎年早朝の5時頃、人の混まない時間に行く事にしているのだが、その日も何組かの家族がいるだけで、朝が開けたばかりのお墓は静かで、空気が凛と澄んでいた。起きたばかりの小鳥が元気にさえずっていた。


   だが、タクシーの運転手さんには、目印の松の樹の側で降ろしてもらった筈なのに、方向音痴の私はお墓がどう探しても見当たらない。四方を見渡して「こんな馬鹿な事があるの?」と自問自答。右に左にと動いた事がさらに迷路に入ってしまったのだろうか…毎年見慣れているお墓の光景とは全く違う場所にポツンと立っている私がいた。諦めて「帰ろう」と決断した時だった。「修子さん」と呼ばれた。紛れもなくお舅さんの声…私は「はい!」と返事をし、声の方を振り向いた。振り返ったそこに中山家のお墓が静かにあった。


   頬を撫ぜる風に秋を感じた。空を見上げたら、簡単には秋にバトンタッチしないよとばかりに夏空が頑張っていた。摩訶不思議なこの話を私の家族は「ふーん」と言っただけで余り真剣には聞いてくれなかった。―お舅さん、あの時はありがとう―

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