2007年08月03日号

病気のリスクと薬のリスク


Aさん、60歳代中頃の女性。10年ほど前から糖尿病と高コレステロール血症を指摘されているとの訴えで初診した。薬物治療は行っていないとのこと。過去の検査データを揃えて持参したので几帳面な性格と思えた。過去のデータを見ると、総コレステロールが270~250mg/dlの間で推移しており、空腹時血糖値は130mg/dl前後、採血した日から遡る1ヶ月間の平均血糖値を反映するHbA1cは6・5%前後。明らかに糖尿病と高コレステロール血症で薬物治療が必要なレベルである。


   家族歴を尋ねたら「父親が糖尿病で足の壊疽、腎不全などの姿を見ているので合併症が怖い…食事や運動にも気を使っている」とのこと。「持参してくれたたデータを見て薬物治療を行うのが妥当な選択だと思う」との私の主張。しかし、納得する様子もないので、沢山の患者さんが居るにも拘わらず、糖尿病や高コレステロール血症の治療ガイドラインを詳しく説明した。結局、「もう1回検査をして今後の方針を決めよう」との結論になった。


   高血圧症や高脂血症、糖尿病にしても、1度の検査データで薬物治療を開始するのは妥当な選択ではない。少なくとも月単位での経過を見て治療方針を決定する。薬剤には副作用というリスクが必ず付きまとうので、薬剤を使用する場合には「副作用のリスク」と「放置するリスク」を必ず量りにかける。「副作用のリスク」が「放置するリスク」よりも低ければ薬剤を処方するというのが原則だ。


   Aさんの検査データは、総コレステロールが254mg/dl、HbA1cが6・6%だった。過去のデータを勘案して判断すると、明らかに薬物治療を必要とするレベル…だが、頑なに薬物治療を拒否するAさん。再度、高脂血症学会や糖尿病学会が提示した治療ガイドラインを詳しく説明したが…結局は納得してくれない。私はなす術もなく、ただただ無力感を味わっただけだった!

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