2007年08月31日号

発達の力


開拓の村で蚕(かいこ)が繭(まゆ)を作り始め、来村者の興味を引いている。この様子は蚕の繭作りが終わる8月末頃まで見ることができるそうで、繭から糸をとる「糸繰り」の作業は9月上旬にも公開される予定という。


   蚕は桑の葉を昼夜なく食べ続け、今度はただただ眠る。食べて眠ることを繰り返しながら、4回脱皮して、やがて繭を作って成虫になる…。そんな蚕の話を聞くたびに思い出すのは、人間発達学の権威として大きな功績を残した京都大学・田中昌人名誉教授(故人)の研究だ。田中先生は、人間が大人になるのに、「新しい発達の力」が4度生まれ、その各段階でそれを育てながら発達してゆくという成長の秘密を解き明かした。


   第1の発達の力は、生後4ヵ月頃、あやされて笑う受身の関係から、自分から人間関係を結ぼうとする主体的な力が芽生えて人に微笑みかける。田中先生はそれを「人知りそめしほほえみ」と呼んだ。人間の成長は微笑から始まるという感動的な事実だ。第2の発達の力は、生後10ヵ月頃の自我が芽生えてくる力。さらに、5歳半ばで経験の中でものごとを学ぶ力を獲得し、14歳頃の思春期に抽象的な思考力が加わって、大人に成長する。そして、これらの力を自分のものとしてすこやかに熟成させる期間が、次の発達の力が生まれる間に必要になる。


   ▼4回の脱皮を繰り返して成虫になる蚕。人間に生まれる4度の発達段階も脱皮のようだ。じっくりじっくり成長してゆくのが、本来の正常なあり方だという。人間として成長するための熟成の時すら失ってしまったかに見える現代の子供たちに、大人はどう向き合えるだろうか…。

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