2008年07月04日号

昼顔のゴマ


本紙の事務所はJR厚別駅の横にある。恥ずかしくなるほど大きな行灯(あんどん)看板が壁にかかっているからすぐわかる。昔、呉服屋さんか何か商店が使っていたそうで、看板をそのまま空けておくのも間が抜けているから、去年ようやく看板代を捻出して名前を入れた。


   厚別駅のまわりは昔はそこそこに商店や飲食店があったらしいが、今はすっかりさびれてしまった。それでも「駅前」であるから、名刺にも《JR厚別駅前》と取ってつけてたように表記してある。土地をよく知らない人に会うと「ほお、駅前ですか」と感心されたりする。「ええ、まあ」と、答える。本当だから仕方がない。“厚別区の厚別駅前”だから相当いい場所だと相手は勘違いしている。


   そのJR厚別駅の前の、ハイマツの植え込みに巻き付いて、今年も昼顔(ひるがお)の花が咲いた。松の根にでも付いて来て自生したものだろう。うす桃色の花々は、飾り気のない控えめな容姿なのだけれども、日の光を浴びて健気に可憐に微笑んでいる。


   小さい頃、学校帰りの道端に、昼顔の良く咲く草むらがあった。その花に口を寄せて「ゴーマ、ゴマ、ゴマ」と呪文を唱える。すると、花の中からゴマの実よりも小さな黒い虫が2匹、3匹とはい出して来るのである。ただそれだけのことなのだが、それが楽しくて小さな子は大きな子からその呪文を教えられて昼顔の花を見つけるたびに遊んで、また下の子らにその呪文を伝えた。平安なのか室町なのか、江戸か明治かいつの頃からの遊びなのかはわからないけれども、そうして野辺の遊びは伝えられて来た。


   昔をふと思い出して、花に口を寄せ「ゴーマ、ゴマ、ゴマ」と呪文を唱えてみた。出て来た。ゴマ粒のようなのが2匹ばかり慌ててちょこちょこちょこと這い出して来た。それは昔のあの夏の日に、道端で遊んだのと同じ虫に見えた。思わず「お前、元気だったか?」と声をかけそうになった。生きていた。無性にうれしくて、うれしいのに、なぜか、少し物悲しかった…。


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