2008年07月18日号

恥の記憶


恥のかきっぱなしの世過ぎでここまで来たと思う。後で思い出せば、よくもまあ、あんなことをやったと思うような恥ずかしい行為もあれば、人の目をまともに見られないような言動や悪事もある。じっとりと冷や汗が出るような軽薄な行いもあれば、人を裏切るような行動もある。人にはとても言えない恥ずかしいことどもが、過ぎてきた道に数限りなく置き去りにされている。それが、なぜか突如としてよみがえってきて戸惑う。遠い昔のことだったりするのだが、顔がほてって胸がどきつき、身が縮む…。


   駆け出しの頃、帯広の商店主に手形について聞かれたことがある。商取引のいわば常識だから、聞いた商店主も知らないはずはないのだが、からかわれたのだろう。商売のこともたいして知らない20幾つかの若いのが、本の知識を知ったかぶりをして披露した。内心冷や汗をかきながら、何をしゃべったのかまるで覚えていない。その後で商店主は「今日は帯広泊りだろうから、ちょっと付き合え」と駅前の通りにある焼き鳥屋に連れて行ってくれた。かわいそうに思ったのだろう。後で思い返して、顔から火が出た。


   とにかく知ったかぶりなどはやめようと心底思ったのは、この時からだった。見栄を張るのもやめた。長~い友達だったはずの髪の毛に、若い身空(みそら)でサヨナラされても、カツラの執拗な誘惑を振り切った。女性に会っても…、飲み屋に行っても、格好をつけるのはやめた。生の自分をさらそうと心に決めた。相手は最初からそれを見ているのだから、期待もしない代わりに失望感も少なくてすむ。これは楽だな、と後で気がついた。


   仕事なんかでもそうだ。謙虚に知らないと言えば、教えてくれるから長い目で見れば得だ。人生いろいろで、見栄を張らなければいけない時もあったりするのだろうけど、そんな器用な才覚は持ち合わせていないから、あきらめた。…はずなのだが、いまだにその見栄やら知ったかぶりやらが出てきて、顔が火事になることも時々ある…。


   かき捨てた恥の多くは誰にも言えない。内緒内緒。中には古傷となって時にうずき出すものもあるから墓場に持って行く。ただ、そうした恥の積み重ねがあって、まだ、何とか歩いていられるのかも知れないとも思う。だから、時によみがえる恥の記憶を、抱きしめてみたりする。


浴衣 福袋

トラックバックURL:

« 細胞から病気を治す医薬品の話No.183 | TOP | 使い回し、嫌な言葉! »

[PR]SEO対策済みテンプレート