2008年08月22日号

怒られているうちが…


「見込みがあるから怒るのだ」。駆け出しの頃、仕事で叱責された後、上司はよく飲み屋に連れて行ってくれて、がんばれよと慰めてくれた。出来が悪いから「田舎へ帰ってしまえ」くらいはいつも言われた。記事を書いたり広告を作ったりするのは職人仕事そのもので、よく修練しないと使い物にならない。屁理屈言う暇があったら体で覚えろ、そんなところからのスタートだった。


   仕事だけでなく、物の食い方、酒の飲み方、世の中の有り様や人付き合い男女の機微までのいろいろを、厳しさを持って教えてくれる大人がいた。その大人たちのほとんどはすでにもう亡くなっているが、難しい判断に迫られたりした時には、ちょいと生き返ってもらって問いかけたりする。いまだにかけがえのない人々なのだ。


   作家の井上ひさしさんが岩手県の一関にいた中学生の頃の思い出話をしている。目抜き通りの大きな本屋さんに行くと、おばあさんが店番をしているだけだったから、生意気盛りのいたずら心で国語の辞書を持ち出そうとした。それを見つけた本屋のおばあさんは中学生の井上さんを店の裏手に連れて行き、「あのね、そういうことばかりされると、私たち本屋はね、食べていけなくなるんですよ」と、その場で薪(まき)割りをさせられた。てっきり罰だと思っていたら、薪割りが終わるとおばあさんが裏庭に出てきて例の国語辞書と、「働けば、こうして買えるのよ」と薪割りした労賃から辞書代を引いた残りだというお金までくれた=「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」(新潮文庫)より=。おばあさんは僕に、まっとうに生きることの意味を教えてくれた…井上ひさしさんは、忘れられないというその思い出を、故郷・一関の講演会で“返しても返しきれない恩義だ”と披露している。


   「怒られているうちが花だぞ」。先輩たちの小言が耳によみがえる。年を取るにつれて、小言のいちいちが、道理を教える大切な言葉に変わってくる。昔の大人たちは偉かったなあ…ふり返ればそう思わざるを得ないのだ。


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