2008年10月03日号

個人情報と、人情と…


「うれしいことがあって、今日はお祝いです」。行きつけの居酒屋で久しぶりに出会ったA子さんは、普段は口数が少ない、控えめで上品な初老のご婦人だが、この日は上機嫌でいつになく饒舌(じょうぜつ)だった。昨年ご主人を亡くしてひとり暮らし。時折り友達と連れだって姿を見せる。気さくなママさんに会うのが楽しみらしい。「実はね、昨日落としたお財布が今日出てきたの」。病院帰りのタクシーから降りた後で落としたらしい。財布の中にはお金とちょっとしたメモ紙が入っていたが、あきらめ切れなかったのは財布そのものだった。


   「主人が生きていた頃に選んでくれた財布なの」。別に買ってくれたわけでもない。ただ、一緒に買い物に行った時に、「これいいんじゃないか」と選んでくれただけなのだが、でも、A子さんにとっては「形見のように思えて…」肌身離さずにいるかけがえのない大切な財布。その女心が、ママさんなどにも悲しくなるほどに愛(いと)しく思える。今日、財布が届いていると警察署から電話があって、A子さんは躍るような心持ちで受け取りに行って来た。その帰りなのだという。


   ただ、残念でどうしようもないこともある。せっかく届けてくれた人がいるのに、お礼の一言が伝えられないことだ。拾ってくれた人は「お礼も何もいらないですから…」と交番に届けて立ち去った。だから、名前なども個人情報保護法などもあって教えられないと警察の係から説明され、では、せめて、どんな方なのか、男性なのか女性なのか、どこで拾ってくれたのか、それだけでも教えて欲しいと食い下がったが、なぜかそれすらも教えられないと言われて、がっかりした。上からの指導もあることだろうし、お巡りさんを責めたくはないけれども、腹立たしくも疑問にも思うとA子さんは言う。個人情報保護法って、どこまで世の中のためになっているのだろうか。何だか、人情も縛られて、世の中サツバツと冷たくなる一方のような気がする、と、その話を聞いた居酒屋のお客もうなずき合った。


   せめて、紙上から…「届けていただいた方、本当にありがとうございます」(A子)。


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