2010年01月15日号

ナナカマド


雪をかぶったナナカマドの、あの赤い実の洋燈(ランプ)…と、旭川生まれの作家・井上靖(故人)が詩にうたったナナカマドが、道路ぎわに赤く下がっている。葉が落ちた後も、冬の白の寂しさの中で赤い実が鮮やかに灯(とも)る詩情に、この木のファンは多い。


   そのナナカマドがどうにも苦手だった。実が赤く色付き始めると、徹夜続きになる若い頃の冬の仕事の記憶がよみがえる。今にしても冬はいろいろと大変な季節だから、どうしても憂鬱になる習いが、心に染み付いてしまっている。冬が近づく前触れの象徴がなぜかナナカマドの赤い実で、だから、この木が散歩人にはちょっと怖い存在になっている。それを知った娘は、毎年「お父さん、ナナカマドの実が赤いよ」とからかっては喜んでいた。


   その赤い実が、なぜか雪が深くなるまでたわわに残っているのは、苦くて渋くて酸っぱいから鳥や虫たちが好んで食べないためだと聞いた。ところが、このナナカマドの実を好んで(?)食べる鳥もいる。蓼(タデ)食う虫も好き好き…で、自然界も人間界も、好きだと思えば嫌い、嫌いだと思えば好きがいて、だから世の中面白いのかも知れない。北から渡ってくる冬鳥の連雀(レンジャク)たちは、ナナカマドに群がって一瞬にしてそこいらの実を食べ尽くすのだそうだ。頭に冠羽をいただいたスマートな装い。尾羽の先などが黄色の黄連雀に、頭部や尾が赤い緋(ひ)連雀も混じって、旅立ちの頃になると、電線や木の枝に連なってさんざめく、そんな賑やかなさえずりが空に響き渡る。


   白く輝く雪の光の中の連雀たちの明るい姿はすがすがしい。そうして、連雀たちがナナカマドに群がる頃には、赤い実もなくなるのかも知れない。春が来る前触れだ…。


セットコンポ

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