2010年07月09日号

夏草刈りの思い出


夏の日、冬の牛馬の飼料にする夏草刈りが何日も続けられる。春から伸びた草を刈り、乾燥させて保存する夏草は、山の中腹にある部落共有の草刈り山で刈り取った。手刈りの大変な作業なのだが、おそらく何百年も続いて来ただろう夏草刈りが終わった後の一面の野原は、子供たちにとっては絶好の遊び場だった。


   湧き水のある所にはこんもりと木立を残して、その木陰に泉が守られている。そんな木立が広い野に点在して、水の在りかを教えている。大切に松の木も残した。ヒューヒューと鳴る松風の中、子供たちは野を駆けてバッタを追い、松かさを拾い、紙飛行機を飛ばした。遠くに働く父や母を見つけると、声を振り絞って「ほーい」と呼んだ。それに気づいて母親や父親は、裏声でやはり声の限りに「ほーい」と叫び返す。それが風にのった…もう50年も前の夏の情景。


   経営が行き詰まって、死ぬこと…を考えた時がある。遠出の仕事回りの車の中で、ふいに父母の呼ぶ「ほーい」という裏声が耳の中によみがえった。半世紀も前の声…。「ほーい」「ほーい」と叫んでみた。何回も何回も呼んだ。あの昔日に帰りたいと思ったのかも知れない。自宅に帰り着いた時、心が少し楽になっていたのを覚えている。


   昔、大人も子供も本当に良く叫んでいたと思う。声の限りに叫ぶその声は、心ものせて運んだ。「ほーい」と呼ぶあの父母の声が、今も時折聞こえる…。


クッキングトイ

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