2011年03月04日号

江戸しぐさ


昨年夏の雨の日、傘をさして狭い歩道を歩いていると、向こうから20歳台半ばと思わしき女性が…このままでは鉢合わせと思って右端に寄り、傘を外側に傾けてすれ違いに備えた。相手は私を無視し、すれ違いざま傘からの雫が私の頬を掠めた。咄嗟に「あっ」と声が出た。相手は振り向いて「チッ」と舌を鳴らし、おまけに傘を回した。遠心力で雨雫が飛散した。


   今は冬なので通勤は地下鉄を利用している。帰りはラッシュ時間で混み合うが、始発電車なので端の席に座る。大谷地駅から多くの乗客が乗るが、大抵の人は混んでくると腰をずらして空席を作る。だが、買い物袋を座席に置いておしゃべりに熱中する中年女性、大股開きで座っている若者もいる。


   「江戸しぐさ」と呼ばれる庶民の智慧がある。「しぐさ」は「仕草」ではなく「思草」と書くらしい。江戸時代の商家に伝わった処世術で倫理観、道徳律、約束事などを口伝で伝えたもの…現代の公共マナーに匹敵する。雨の日のすれ違いは「傘かしげ」、狭い道ですれ違うときに相手に水滴がかからないように傘を外側に傾ける。冬道で行き交うときに端に寄って半身になる「肩引き」、席譲りに関しては「こぶし腰浮かせ」と言い、渡し船で後から乗船する客のため、皆が拳一つずつ詰めて席を空けようと。


   「江戸しぐさ」は「思いやり」を基礎にした生活の知恵。「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」などは街角での「思いやり」、他人の失敗に際して自分の側にも小さな過失があると謝る「うかつあやまり」や「呑気しぐさ」といって失敗を即座に叱らずに長い目で成長を見守る他人への「思いやり」もある。「もったい大事」といって物品の徹底した再利用を促すエコロジー精神、社会で役立つ勉強や経験を積む「お心(しん)肥やし」など物や自分自身に対する「思いやり」もある。円満な社会生活のための気遣い=「江戸しぐさ」には、現代の日本人が忘れた何かがあると思う!


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