2011年10月21日号

月夜の晩は


往年の名歌手、霧島昇と渡辺はま子の歌に、「蘇州夜曲」(作詞・西条八十、作曲・服部良一、昭和15年)というのがあって、古い歌なのだが、情感細やかな美しい情景がこの歌の背景に浮かぶ感じがするものだから、大切な歌のひとつになっている。…とともに、記憶ははっきりしないのだが、満州に出兵して命からがら復員した親父が、いつも口ずさんでいたような記憶もおぼろげにある。いつの間にか、子供心に刷り込まれたのかも知れない。


   とりわけ好きなのは3番の♪涙ぐむよな おぼろの月に 鐘が鳴ります 寒山寺……の部分で、歌では春の朧月なのだが、散歩人の場合は秋の月に思いがつながってしまう。この前の満月の時も、きれいに晴れた空に青く浮かぶ秋の月を見上げて、ちょっとしみじみしてしまった。寒々しく澄み切った秋の月は、蘇州夜曲の歌と親父を思い出させる…。


   中学2年生の秋も深くなったある晩…月の光が明るく照らす田んぼで、刈り取った稲を干すのに杭(くい)にかけていく「ホニョ掛け」を父親に手伝っていた時だった。作業が遅れ、もう月は中空にさしかかっている。ふと見上げた時、理由は知らないが、親父の目に涙が光っていたのを見たのである。その時、なぜかだしぬけに「ああ、父さんも1人の男なんだ」…そんな思いが一気に心の中に流れ込んできたのである。いろいろなものを背負って懸命に生きている1人の男がそこにいる…そんな気がして、親父が何だか愛しく思えてしまった…散歩人の、おそらく親離れの瞬間だった。


   晩秋、月夜の晩はそんな思い出もよみがえって、しんみりしてしまうのである。


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