2011年12月23日号

“サンタの秘密”


戦争が終わってわずか10年あまり。東北の、自動車すら入れない山奥のごく貧しい集落でも、クリスマスの朝には、枕元にそっと、菓子を詰めた赤と銀ラメの紙製のブーツとおもちゃが置かれていた。


   まだまだ古い慣習の中の生活で、暖房は薪(まき)を燃やす囲炉裏(いろり)、電気は通ったばかりで、牛馬と共に起きて寝る暮らしだった。そんな中のクリスマス…。母親が豆菓子と小さなケーキを、小皿に分けてくれた記憶もおぼろげに残っている。散歩人の生家が決して特別だったわけではなく、まわりの子供達がみんなサンタクロースを待ちわびていた思い出からすれば、戦後まもなくの片田舎でも、貧しい中でクリスマスをやっていた家が結構あったのではないか。


   どこかで見た絵本の記憶があったのだろう、サンタは暖炉の大きな石組みの煙突から来るものだと信じるようになって、幼な心に、暖炉も煙突もないのにサンタはどうやって来たんだろうと思い、やがて、囲炉裏から薪ストーブに変わって、今度は、こんな細い煙突なのにどうやって入って来るのだろうという謎が生まれた。何キロもある遠い町まで行って来た“サンタ”からの贈り物に、幼子は無邪気にはしゃいでいたのだけれど、大人たちは戦後10年かそこらで、異教の風習を日常的な文化としてすんなり取り入れていたわけだ。たいしたこだわりもなく、気難しいことも言わないで新しい風習を受け入れたのは、決して宗教に対する無節操からではない、ただただ子供たちのうれしい姿を無上の喜びにしていたのだろう…と思う。


   それは、異教の神々も尊重するおおらかな節度と、やさしさと慈(いつく)しみの心に満ちた日本の大人たちが共有する、ちょっとした内緒事…。これからもずっと伝えられて行くだろう素敵な風習…。子供たちの夢を壊してはいけないと、静かに守られてきた“サンタの秘密”…。


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