2012年10月19日号

山中教授と未来への希望


足の自由がきかなくなって歩けなくなり、手もいうことをきかなくなる、運動機能が徐々に失われて動けなくなり、やがて、ろれつも回らなくなって口がきけなくなる…小脳の細胞死で神経が冒され、こうした症状が何年かかかって進行し、身体だけがまるで生殺しのように蝕(むしば)まれて行く、例えば脊髄小脳変性症という難病がある。特定疾患(難病)として届け出があるだけで脊髄小脳変性症の患者は全国で約2万3000人(平成21年4月現在の特定疾患医療受給者証所持者数/厚労省統計)。約6000人に1人がこの難病と闘っていることになるが、種々の事情から病気を隠す場合も少なくないとみられ、実際の患者数はわからない。


   治療法がまだ確立されていないこうした難病のうち、高額な医療費が必要な45疾患=現在は56疾患=が、医療費公費負担の対象に指定されているのだが、その45の難病に罹(かか)って苦しんでいる人だけで約68万人にのぼる(同統計)。症状の辛さ、命との向き合い、介護や遺伝の問題、仕事への不安、経済的な事情で家族や周囲との関係に人知れず苦しむ人々が存在している。


   難病患者にとって、京都大学・山中伸弥教授のiPS細胞(人工多能性幹細胞)研究の進展は、運命に一縷(る)の望みをつなぐ、文字通りの希望の光になっていた。その山中教授が2012年ノーベル医学生理学賞に輝いたのだった。iPS細胞は体のあらゆる細胞や組織に変化することができるという。自分の細胞からつくれば拒否反応の心配もない。例えば精子や卵子などもつくり出せるなど倫理的な問題も発生するが、細胞や組織を再生する再生医療が実現できる一方で、病気の解明や新薬の開発にも直結する。患者たちにとっては、病気の治療法確立に向け現実味のある具体的な手応えを感じた瞬間だった。病気の治療ができるようになる、運命が変えられるかも知れない、自分たちには間に合わなくても若い人は何とか助かる……期待が一歩一歩現実に近づく。


   記者会見で山中教授は「難病を持っている患者さんには、希望を捨てずにいてほしい」と、研究を進めiPS細胞の医療応用を実現して行く決意を語って、患者に心を込めたメッセージを送った。優しい人なのだろう。整形外科医をめざした頃、山中さんは手術が不得手で遅く「ジャマナカ」と呼ばれたという。何度も挫折しながらの歩み…。賛辞を送られる度に「まだ、たった1人の患者さんも救っていない」とも語る、そんな人柄なのが、何か誇らしく、うれしくなった。


花畑牧場

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