2013年09月27日号

賢かった私は…


賢かった私は…4、5歳のころの夏の夕暮れ、風呂から上がってすっぽんぽんのまま、何気なしに農作業から帰ってきた馬の後ろに近寄った…とたんに、馬は後ろ足を跳(は)ね上げて、その蹄(ひづめ)が鼻先をブンとかすめた。家族は肝を冷やしたと言う。以来、馬は苦手になって、近づけなくなった(おかげで、大人になっても競馬などに走ることはなかった)。


   賢かった私は…いつも青っ洟(あおっぱな)を垂らしていて、それをぬぐうもんだから袖口などはいつもビンガビンガだったのだが、飼い犬の「コチ」がいつもなめて、きれいにしてくれたのだった。で、犬は洟(はな)が好きなのだろうと、村の他の犬に、「ほら、なめれ」とばかりに顔を突き出した…とたんに、ガブッと…(おかげで、犬も嫌なものは嫌なのだということと、コチの親愛の情を知ることになった)。


   賢かった私は…秋の山でアケビや山ぶどうを夢中になって採っていたものだったが、あるとき木の枝の先の方に大きなアケビがブランブランと生っているのを見つけて、喜びいさんで登ってやっと手が届いてとった…とたんに、枝がポキリと折れてまっさかさま…。幸い雑木林は落ち葉で地面が柔らかく何事もなかった。けれど、手に持ったアケビのぱっくり口を開いた中は、先に鳥に食われてしまっていて空っぽだった(おかげで、外見で判断しても中身は空っぽの場合があるということと、木の枝は折れることがあるということを身をもって知った)。


   賢かった私に…よせばいいのに、兄は買ったばかりの自動車で運転の仕方を教えてくれた。で、兄がいない時にこっそり、こともあろうにゲタをはいてその車を乗り出したのだった。ゲタの鼻緒が外れてそれを直そうと下を向いた…とたんに、車は2mばかりの土手を1回転して下の田んぼに転がって…、新しい車は屋根とドアがぺしゃんこにつぶれてしまった。兄は、車のあまりの惨状とばかばかしさに、怒ることさえできずにただ茫然としていた(おかげで、車は下駄をはいて運転してはいけないことと、下を見て運転したら危険なことを思い知った)。


   このように、賢かった私は…愚かにも見える数々の経験を、身をもって有意義に重ねて成長してきたのだった。まだまだあるのだが、思い出しているうちに気が滅入ってきたから、あとは忘れることにする。


   《追伸…9月13日号「散歩道」で「舟木一夫」さんが「船木…」に誤って表記されていました。お詫びして訂正いたします。また、お知らせくだすった読者の方に御礼申し上げます…散歩人》


クロックス

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