2014年01月31日号

にごり酒の思い出


 日暮れ時、言いつけられてちょくちょく濁酒を取りに行った記憶が残っていて、冬になると思い出す。まだ、5、6歳の、小さい頃の記憶…。


 濁酒はどぶろくのことだが、にごり酒と言っていた。自家用であっても密造酒ということで、税務署の取り締まりが厳しい。時々“手入れ”があって、村中が大騒ぎになった。だが、貧乏な百姓家の先祖代々の大切な“食文化”である。米があって麹(こうじ)とイースト菌(酒を発酵させる酵母菌)さえ買えば作れるのに、金もないコメ農家がわざわざ清酒を買わねばならない義理はないから、どこの家でも漬物と同じように“密造”に精を出した。


 濁酒は、沢伝いに数百m離れた炭焼き小屋や杉の大木の下に隠して、大きな甕(かめ)に仕込んであった。静まり返る夕闇の中の、人の足跡だけの心細い雪道を辿って行く。着いたら、荒むしろや毛布のようなもので幾重にもおおっているのを、静かにはがしていく。ふたを取って覗いてみる。ふつふつと、酒が沸(わ)くかすかな音が聞こえる。備えてあるひしゃくで上の方の上澄みを飲んだ。甘いがちょっと辛い。今度は底から醪(もろみ)をかき混ぜる。これもひと口。麹の甘みがあって、好きなのはこっちの方だ。持ってきた飯ごうに汲んで、甕のおおいを元通りに戻して、来た道を戻る。青い雪明りの道。もうとっぷり暮れているのに、なぜか足取りは軽い…。赤い顔をして、千鳥足で帰って来たと後からよくからかわれた。


 そのもろみを目の細かい袋でこして飲むのである。発酵し過ぎれば酸っぱくなるのだが、その度合いもあって家々で味が違う。だから、大人たちはその出来不出来を肴(さかな)にして飲み合うのである。漬け物と同じなのだった。昼間は冷やで、夜には燗(かん)を付ける。冷やには冷や、燗酒には燗酒のうまさがある。よくいい酒は冷やに限るという人があるけど、よっぽどいい酒でないとそうは言い切れないと、ちょっとだけ自信を持って思っている。なにせ年端も行かない頃から、正真正銘の「純米酒」を味わっていたのである…。


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