2014年07月11日号

微笑みとともに生まれて


 この話がどうにも好きで、これまでも何度か紹介しているのだが…。


 人間発達学の権威として大きな功績を残した故・田中昌人さん(京都大学名誉教授、2005年没)は、人間は生まれてから大人になる過程で「新しい発達の力」が4度生まれ、そのステップを踏みながら成長して行く…という発達の道筋を長年の研究で明らかにした。


 生後間もなくから、母乳を飲んで満足しながら眠りに移っていく時に、人間だけが、美しい生理的微笑みを見せる。“新生児微笑”といわれる謎のほほえみで、「天使のほほえみ」「無垢の微笑」などともいわれる。そして、生後4ヵ月頃に瞳の様子が変わり、周囲を見回して、「ミツケタ!」という表情を示し、自分の方から人に対して微笑みかけるのだという。田中さんは、それを「人知りそめしほほえみ」と呼んだ。①第1の発達の力は、生後4ヵ月頃、あやされて笑う受身の関係から、自分から人間関係を結ぼうとする主体的な力が赤ちゃんの内部で準備され始めて、微笑みかける…「人知りそめしほほえみ」。②第2の発達の力は、生後10ヵ月頃の自我が芽生えてくる力。③さらに、5歳半ばで経験の中でものごとを学ぶ力を獲得し、④14歳頃の思春期に抽象的な思考力が加わって、大人に成長する…。


 「まだ見ぬ世界に向かって微笑み、世界を見てまた微笑む。人間の成長がほほえみから始まる事実。そのほほえみを生み出す本能が人を信じる心とすれば、それを裏切るような世の中であってはならない…と、やはり思う」――散歩道欄で、こう書いたことがあった。今また、こうして生まれ育つ命のかけがえのなさを、つくづくと考える。


 北海道開拓の村で、もうすぐ蚕(かいこ)の飼育展示が始まる。餌に桑の葉しか食べないから、村の桑畑からスタッフがせっせと補給する。昼夜なく食欲旺盛で、なかなか大変なのだと言う。蚕は桑の葉をただただ食べ、そして眠る…。食べては眠ることを繰り返しながら、4回脱皮して繭を作り、成虫になる。何だか似ている。人間に生じる4度の発達段階も脱皮のようだ。


 昼下がり、ランドセルを背負った小さな女の子が、空想の世界に浸りきった様子で、小声でフンフン歌をうたいながら通り過ぎて行った。ああ、こんな時代が自分にもあったと、思わず立ち止まってしみじみしてしまった。微笑みとともに生まれた子供たちや若者たちは、その信頼を裏切られてはいないだろうか。そう考えたら、今の世の中が何だか悲しくなった…。


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