2014年08月22日号

見たいものだけが見える


 Aさんは50代後半の男性。「人間ドッグで慢性胃炎と診断され、祖父と母が胃癌で亡くなっているので心配」と言って受診した。持参した報告書には、腹部超音波検査で左腎臓に直径10ミリの嚢胞、肝臓に直径15ミリの嚢胞があって経過観察が必要との記載、胃バリウム検査には慢性胃炎との診断が付けられて経過観察とのこと。


 Aさんに「この結果についての説明を受けたの?」と尋ねたら、「最終判定は後になるので、今日出ているデータを説明します」と言って説明されたそうだ。概略は①腎臓と肝臓の嚢胞は大きくなると実害が出てくる、②血液データのいくつかは正常値から少し外れている、③慢性胃炎は胃癌の発生母地になる、の3点。近親を胃癌で亡くしているAさんは③のことだけが印象に残ったらしい。


 表題の言葉は、古代ローマのカエサル(シーザー)の「全てが見えているわけではなく、人間は見たいものだけを見ているのだ」から引用した。人間は、目や耳に入っても、「見たいこと、聞きたいこと」しか認識しないことが多い。私たち医師は毎日のように同じような患者さんからの質問に同じような答えをしている。しかし、一般的に患者さんは、自分が心配していることに敏感に反応する。診断学の論理では、異常な所見を見つけると、癌のような最悪の事態から無視しても良い事態までを想定し、「病的の可能性もあるけど、そうでない場合も多いので経過を観察しましょう」と話す。悲観論の患者さんは最悪の事態、楽観論の人は最善の事態と受け取る。


 Aさんの場合、腹部CT検査、胃内視鏡検査、血液検査で病的レベルのものではないことを確認し、詳しく説明して納得してもらった。人間ドックは異常を見落とさないために過剰判定になる。しかし、些細な異常と思われるデータから重大な病気が見つかる場合もあるので、「見えないものまで見る」心構え診療に当たりたいと思う!


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