2015年06月26日号

トンビがクルリと輪をかいて


 「ピーショロロー」と鳴く声がして見上げると、はるか空高く、2羽か3羽のトンビがそれぞれに悠然(ゆうぜん)と輪をかいてとんでいた。4つか5つの頃だろう。トンビが風に乗って悠々と、自由に飛ぶ姿が何だかずいぶんうらやましく思えて、田んぼのあぜ道に立ってずっと空を見上げていた気がする。その時に、♪夕焼け空がマッカッカ トンビがくるりと輪をかいた ホーイのホーイ……田に入って仕事をしていた母親が歌い出したのを覚えている。♪そこか~ら東京が見えるかい 見えたらここまでおりてきな やけどをせぬうち 早く来ヨ ホーイホイ……三橋美智也が歌った「夕焼けとんび」(矢野亮作詞・吉田矢健治作曲)は、昭和33年に発売されてヒットした流行歌だった。


 戦前海軍で潜水艦に乗っていた兄に、「歌がうまいから東京に一緒に連れて行って習わせる」と言われて、母は東京を夢見て少女の時代を生きた。戦争が激しさを増して兄の乗った潜水艦は南の海に沈み、少女のはかない夢は消えてしまう。そこから東京が見えるかい…と母の歌う声がどことなく悲しげだったのは、そんな兄と東京への思いもあったのだと後で知った。秋田の奥深い山あいの、山の間にある空からも東京というものが見えるんだろうか、と無邪気な子供心は思ったのかも知れない。東京というところが、田舎者にとっては火傷(やけど)もしかねない都会だとは知りもしない頃の、忘れられない記憶となって、トンビが輪をかく情景が三橋美智也の歌と一緒になって心の底に残っている。


 それにしても、トンビが空に輪をかく、あのゆったりとした優雅な景色は、どれほどに人々の心をいやしてきたのだろうと思うことがある。「ピーショロロー」の鳴き声が聞こえただけでも、なんだかほっとする気分になってしまう。青空にトンビが飛んでいる風景を見た時などはこんな歌も思い出す。大正時代に作られた唱歌「とんび」(葛原しげる作詞・梁田貞作曲)。♪飛べ飛べとんび 空高く 鳴け鳴けとんび 青空に ピンヨローピンヨロー ピンヨローピンヨロー 楽しげに 輪をかいて――実は作曲者の梁田貞(やなだただし〈てい〉)は、札幌市出身の教育者で作曲家。「どんぐりころころ」「城ヶ島の雨」などの作品で知られている人だという。


 ♪上りの汽車がピーポッポ とんびもつられて笛吹いた ホーイのホイ……から始まる「夕焼けとんび」の2番は、♪兄(あん)ちゃはどうしているんだい ちょっぴり教えてくんないか……と続く。この国はどうなっちゃったんだろうか、本当のところを、ちょっぴり教えてくんないか、と空のトンビに聞いてみたい気もする…。


ケンウッド コンポ

トラックバックURL:

« 糖尿病と糖質制限食 | TOP | 補聴器について »

[PR]SEO対策済みテンプレート