2015年07月17日号

夏の情景、夏のうた


 季節ごとに懐かしく心によみがえる情景というのが、人それぞれに必ずあるのだと思う。散歩人の場合は、せいぜい小学校1~2年生ごろまでの、まだ母親の腕の中にいた小さい頃の思い出が多いのだが…。


 夏の情景で鮮明に思い出すのは、だから、村の子や家族の誰かといる場面だったり、野や森の中で1人でいる場面だったりする。……町へ出る峠道で木陰の湧水をフキの葉で飲む冷たさだったり、白い日傘をかぶってまぶしそうに空を見上げる母親の姿だったり、潜(もぐ)った川の淵の水中の景色だったり、魚すくいに行った小川のアメンボだったり、水底に反射する日の光の揺らめきだったり、野の中に立つ松風の音だったり、その根元の蟻の巣の様子だったり、ホタルが乱れ飛ぶ中であぜ道を走り回る風景だったり……1つの情景からまた1つの情景がよみがえって、浮かんでは消えてゆく。そこにつらい場面やにがい思い出が少ないのは、年がいって長い時間が経過したためかも知れない。若い時は思い出す行為そのものを避けていた気がする。まだ記憶が生々し過ぎて、思い出すと疼(うず)き出す傷口が多かった。時間が経つほどに、つらい思い出も甘い感傷にくるまれていくようだ。


 季節ごとにふっと心をよぎる詩や歌やメロディーもある。大人になるにつれての記憶がそこには重なる。多くは歌謡曲の一節なのだが、それも心の中にしまいこまれているその時々の「思い」が、きっと歌の中によみがえるのだろう。坂本九の「見上げてごらん夜の星を」(作詞・永六輔、作曲・いずみたく)などは、♪小さな星の小さな光りが ささやかな幸せをうたってる…の部分を、夏の星空を見るたびに思い出す歌だし、若い頃に親しい友人から教えられた「私の耳は貝のから 海の響きをなつかしむ」(ジャン・コクトー/堀口大学訳)という詩は、覚えやすかったのだろうか、なぜか夏になると決まって心に浮かぶ。


 夏の宵、そんな昔日の情景がふっと心によみがえったりする。それをそっと、かみしめてみたりする…。


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