2016年03月11日号

春の雪、わらべ歌


 ♪上みれば虫こ 中みれば綿こ 下みれば雪こ……秋田県に伝わるわらべ歌だが、その細(こま)やかな状景をありのままに歌った素朴さが子供の頃から好きだった。雪国の子供たちならきっと誰でも知っていると思う。中空から次から次へとわき出てくる雪を見上げていると、心が空に吸い込まれていくような不思議な感覚になるのだった。虫のような黒い点がみるみる綿のようなひとひらずつの雪になってふわりふわりとまわりに落ちてゆく…。その様子に心を奪われて、いつまでも空を見上げている。そんな真っ白な心の広がりが子供の頃にはあったのかも知れない。


 このわらべ歌は冬の歌ではあるけれど、正月からこっち、ちょっと暖かい日だったり、春めいてきた頃の状景によく合う。少しずつ暖かみが増すごとに、ふわっとした「綿(わた)雪」に雪質が変わってくる。それが幾つかぼたんの花のようにふんわりとくっついて大きめになったのを「ぼたん雪」(ぼた雪)と呼ぶ。もっとも、秋田の田舎では、少しばかり水分を多く含んだ大きいのがボタボタ落ちてくるのも「ぼた雪」だったから、「ぼたん雪」も「ぼた雪」も一緒くただった。やがて、落ちてもすっと消えるような淡く儚(はかな)い風情の「あわ雪」(泡雪・沫雪・淡雪)が舞う。雪がとける頃、冬の名残を惜しむように「なごり雪」が降る…。


 春の雪の表情は本当に変化に富んでいて、呼び名もいろいろなのだが、ひとつひとつに情緒があって味わい深い。暮らしに関わりが深いほど名前や状態を表す言葉が増えるそうで、春めく頃に降る雪の呼び名が多いのも、北国の人々の春を待ちこがれる気持ちがにじみ出ているようで、何だかいじらしい。


 秋田の田舎から東京へ出た頃、その訛(なま)りがあるのを笑われて、「ナマリのタマをぶち込むぞ」なんて強がってまぜ返したのを覚えている。そのうち訛りも消えたと思っていたが、年を取るにつれてまた出て来た。頭で考えて話さなくてもいいためか、幼い頃に身についた訛りの方が楽なのだ。♪…なが~み~ればわ~だっこ~…などと、訛りそのままの歌と、空を見上げている子供の頃の状景が、時おり心の中に浮かんでくるのを、この頃は手でなでさするように愛しんでいる…。


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