2017年07月28日号

冷や汁の思い出


 子供の頃の記憶というものは、なぜかいつまでもはっきり残っている。鮮(あざ)やかでありながら、細かくなるとどこかおぼろげな、そんな心もとなさもつきまとう思い出たちが、季節季節その時々によみがえっては心をうずかせる。…で、今回はひゃっこい「冷や汁」の話…。


 時は昭和30年代。まだ耕運機などは普及していない頃の秋田の山奥の寒村では、まだ農作業は牛馬と人力がすべてという時代だった。この頃からあれよあれよの10年ほどの間に、耕運機、トラクター、田植え機、コンバイン…機械化が一気に進んで、農村の風景も暮らしも大きく変わる。きっと何百年かに一度の大変革期で、その目撃者なのではないか…そんな思いがある。


 夏の間、朝飯前の仕事は牛馬に食わせる青草刈りで、田畑の周りや山すそはいつもきれいに刈り取られ、丘という丘には野原が広がっていた。そして、夏の盛り、村人は(毎朝の草を刈るにはちょっと遠い)山の中腹まで出かけて、冬の牛馬の飼料にする夏草刈りに精を出す。家に戻る時間はないから弁当も持つ。メシ、生みそ、キュウリの薄切り、シソの千切り…タクアンかナスの1本漬けなんかの漬け物。塩引鮭でもあれば大ごちそうだ。


 人々は山も良く手入れしていて、昔から続く草刈り場は、湧き水のある場所は日陰になる木立ちをこんもりと残したり、なぜか松の木を大切に残したりしていた。昼どき、その水が湧き出る日陰に休んで、清水で生みそをとき、キュウリやシソを入れ、即席の冷や汁をつくって飯を食う。この冷や汁は家でも用意される。冷蔵庫などない時代、熱い汁などは悪くなって(あめて)しまうから重宝なのだ。メシは湯漬け風の“水漬け”…。


 子供の頃は別にうまくもなかったけれども、この年になってたまに食べると、なかなかにいい。昼飯の後は昼寝。麦わら帽子を顔にかぶせて横になる。松風が吹いて、そよりと心地良く頬をなでる。遠くにカッコウが鳴いている。白い微睡(まどろ)みのとき…。


ダイエットクッキー

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