2018年06月22日号

大鵬親方の思い出


 若い頃、川崎のキャバレーでボーイをしていた。黒のズボン、白のワイシャツに蝶ネクタイ、白い上着…。まるい大きなトレー(銀盆)を小脇に抱えて、客につくホステスがマッチかライターの火を高く上げて合図すると、客席に駆け付けるのである。


 ある日の宵の歌謡ショーが始まる前、舞台横の大テーブルに通された男女7~8人の集団客についたことがあった。その中に大きな体格で端正な顔立ちの人がいる。引退して数年後の横綱・大鵬だった…。“タニマチ”(ひいきにしてくれる後援者)だろう連れの客を立てて、大鵬親方は正面席に座らず、小さな補助イスに座った。巨大な尻に四角い補助イスが潰(つぶ)れそうに見えた。口数は少ないが、やさしい目をして向かいの客と笑い合っている。大鵬にビールを注ごうとすると、傍(かたわら)のウイスキーを取ってそのビールグラス(ビアタン)に注いでくれと言った。タニマチ向けのサービスという意味もあったのかも知れないが、「さすがに相撲取りだ」とビックリしたのを覚えている。


 平成25年に亡くなった第48代横綱・大鵬幸喜さんは、弟子屈町川湯温泉の出身。幕内優勝32回、全勝優勝8回。好んだ言葉は「忍」の一字。引退後は大鵬部屋を創設。昭和の大横綱、72年の生涯…大鵬の懐かしい映像を振り返る放送(NHK映像ファイル あの人に会いたい「アンコール 大鵬幸喜(力士)」)が、総合テレビ6月23日(土)朝5時40分~5時50分にあるという予定資料を見て、大鵬親方に酌をした時のことを思い出した。


 今年3月の大阪場所で序ノ口優勝を果たした大嶽部屋の納谷は、実は横綱・大鵬の孫に当たる。序ノ口→序二段→三段目→幕下→十両→(幕内)前頭→小結→関脇→大関→横綱。まだまだ道は遠い。が、目を細めて応援したくなる。四十数年前の、ほんの一瞬のすれ違いなのだが、かの人の穏(おだ)やかな人柄と品格の高さに直に触れたような気がして、宝物のような大切な思い出になっている。


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