散歩道 7月26日号掲載

▼7月15日夕方に札幌駅前で安倍晋三首相が参院選の応援演説をしている際の騒動を伝えたニュース…。「安倍やめろ」と叫んだ男性1人や、「増税反対」と声を上げた女性がやはり1人、警察官に取り押さえられ、服や腕をつかまれてその場から排除されている。さらに、「年金100年安心プランどうなった?」と書いたプラカードを手にした年配の女性も警察官に取り囲まれて無理やり移動させられている。パソコンからプリントし、ラミネートして手づくりしたらしい、A3ほどの大きさのその“プラカード”を掲げて年金問題を訴えたかったらしいのだが、「安倍さんに見てもらいたかったですが、警察に阻(はば)まれました」と、すでに高齢の域に達しているかも知れないその女性は落胆した様子で言った▼ショックだったのは、街宣車の上からマイクで演説をする政治家に向かって、身一つの一国民が路上から肉声で叫ぶ“意見”や“主張”が、国家権力によって制止されて妨害・排除されたことだ。新聞各紙の報道では“ヤジ”と表現されていたけれど、「安倍やめろ」も「増税反対」も主張したいことを短く凝縮した、国民のかけがいのない肉声の一つひとつなのである。まして、年配の女性が、(ニュース映像を見る限り)遠慮がちにそれでも勇気を振り絞って掲げようとした、年金問題を訴えようとしたプラカードは、当事者による必死の“直訴”ではなかったか…▼演説する政治家に節度ある範囲で自由にもの申したり、訴えたりする、きわめて民主的な国民の行動を、力をもって封殺する警察の姿を映し出した一連のニュース映像は、映画などで見る戦前の治安維持法下の特高警察を思わせるような恐怖政治のイメージに直結した。こうした表面上は小さなことに見える積み重ねが、気がついた時には取り返しのつかない事態になっているかも知れない。本当は国民的な論議が必要な問題ではないかと思う。後悔する前に…。