淡い黄緑の紫陽花(あじさい)の切り花が一輪、背景のない虚空に無造作に描かれている。鮮やかに咲く花と、みずみずしい葉々から伸びる枝が、中途で断ち切られている。その断面には、水分や養分を吸い上げ貯蔵する茶色の髄(木芯)がさらされている…▼枝が断ち切られたままに描かれたその絵の衝撃は、今も忘れられない。まるで、この国の先行きを暗示しているかのように思えたのだ。昨年2月5日に100歳で亡くなった、孤高の日本画家とも称された堀文子さん、97歳の時の作品。「心の時代」というNHK・Eテレのドキュメント番組で描いている情景が紹介され、2015年夏に完成したという…▼選挙後援者を“供応接待”したりしたら、買収・公職選挙法違反になる。しかも、国民の血税を使って…とすれば、ことは悪辣(あくらつ)だ。安倍晋三総理大臣主催の「桜を見る会」をめぐる一連の問題。各界の功労者をねぎらうという本来の主旨を踏みにじり、第2次安倍政権以降は、首相の選挙後援者や自民党政治家の支援者などを大量に招待、招待者数・予算ともに急増した。しかも、大物詐欺師を招待して詐欺に手を貸したり、証拠になれば都合の悪い「公文書」を葬ったりする…。この問題を見過ごしてはならないのは、国民が平等に選挙を行い議会に代表を送る選挙制度をはじめ、国民のために築き上げられてきたこの国の諸制度が破壊されかねない、重大な危機をはらんでいるためでないのか▼先人が築き上げたかけがえのない「遺産」の一つ一つが、いたずらに食いつぶされていく…。例えば、平和憲法を改憲しようという動き。土地土地の庶民に溶け込み親しまれてきた郵便局を無理に分割民営化して郵便局員を苦しめ引き起こされた「かんぽ生命」の不正販売問題…などもそうなのだろう▼…その花は、いつまで咲いていられるのだろう。ほどなく萎れてしまう運命は、花や葉にはおそらくわからない。枝に残る水分が尽きてしまえば、それまでの命だ…。
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