散歩道 9月6日号掲載

何かくすぐったい感じがしたから、そのまま車の窓に映してみたら、頭のてっぺんにトンボが止まって一休みしていた。毛髪があれば粋な髪飾りなのだが、残念なことに散歩人には毛が無い。とはいえ、少しばかり動いてもトンボはしばらく止まったままだったから、何だかうれしくなって、車に乗り込まずに飛び去るまでじっとしていた…▼秋の風がさわやかになって、9月8日には季節の巡りを表す二十四節気で言う「白露(はくろ)」を迎える。朝晩が冷え込み始め、しらつゆが草に宿る、そんな趣(おもむ)きのある季節…なのだそうだ。だけれど、夏から秋にかけて、この数十年毎年思うことだけれど、トンボの姿が年々少なくなっているのが気にかかっている。オニヤンマやギンヤンマはともかく、どこにでもいたシオカラトンボや赤トンボなんかの普通のトンボの姿に、ここ数年は本当にお目にかからない。トンボが当たり前のように空いっぱいに乱れ飛ぶあの昔日の景色はどこへ行ってしまったのか。それだけに、頭の上にトンボが止まってくれただけで、散歩人は幸せな気分になったのだった▼「ちいさい秋みつけた」(、サトウハチロー作詞・中田喜直作曲)という童謡を秋口になると決まって思い出す。NHKの「みんなのうた」にボニージャックスの歌で放送されたのだが(初放送は1962年10月~11月/以降72年と82年にも放送されたという)、歌はもちろん、キリリと大きな瞳の小人が特徴的な藤城清治さんの影絵に引き込まれて、いまだに歌の情景が記憶に残っている▼――誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた/ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた/めかくし鬼さん 手のなる方へ/すましたお耳に かすかにしみた/よんでる口笛 もずの声/ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた――▼この季節、そこにもここにもそっと顔をのぞかせる“秋”を見つけるのもまた楽しいかもしれない。