「本当にいいのかい」と、初老の店主が念を押す。「いいんです。バッサリやってください」。“バッサリ”というにはおこがましい程度のすだれ頭(後には、バーコード・ヘアとも言うようになった)だったが…▼高校入学時には、パーマをかけていると間違われて母親が呼び出された逸話があるぐらい、髪はクログロとしていた。本人は無頓着だったのだが、髪の毛が細めでそれが波打ってパーマだと思われ騒ぎになったらしい。以来、「天然パーまん」などとシャレてふざけていたものだが、20代後半から“豊かな”はずだった髪が薄くなり始め、猫毛と言われるくらい一段と細く産毛のように頼りなくなって、頭頂部から髪の毛を透かして地肌が見えだしたと思ったら徐々に光ってきたから穏やかではない。床屋に行くたびに養毛剤をすすめられるようになる。髪の毛が薄いのを隠すために右から左、今度は左から右と、側頭部の髪の毛を真横に撫(な)でつける涙ぐましい努力が始まる。若い身空の“すだれ頭”に鏡を見るたび気落ちする▼たかが髪の毛のことで、うじうじと変にいじけて卑屈に生きているようで、自分が嫌になった。モテなくても「人間、中身だ」と日頃強がってきたではないか。こうなったらもういけない。行きつけの床屋で「今日はどうしましょう」と聞かれて、とっさに「五厘(ごりん)の丸刈りに…」「バリカンでやってください」と口に出してしまった。言ってしまえばこっちのもの。もう後戻りはきかない。店主は本当にいいのかと念を押してから、ハサミをバリカンに持ち替えたのだった…▼後戻りできない立場に自分を追い込むのは、頭も心もサッパリするための“強硬手段”らしい。気持ちが軟弱だから、そうでもしないと自分で変われないと自覚していた節がある。中学校に入学した頃、何かに行き詰って自己嫌悪に陥った時も、やはり床屋に行った時にとっさに丸坊主にしたのを思い出す。これが2回目だった。よく女の人が気分を変えるために髪を切り落としてショートカットにしたりする…こちらはハゲ頭のエピソードだから比べたら悪いけど、そういう気持ちに少し似ているかもしれない▼“バッサリ”やってから30数年、世間にさらされ続けてもはや強靭(きょうじん)な皮と化した頭皮に、秋風の冷たさを直接感じて撫でまわしながら、そんな無茶なところがある性格も、きっと良かったのかもしれないと、ふと思った。
発行者
有限会社くらしの新聞社
〒004-0055
北海道札幌市厚別区
厚別中央5条4丁目3-4
(JR厚別駅前)
電話(代表)
011-892-4110
配布に関するお問い合わせ
011-398-4126
FAX
011-892-4116
バックナンバー
- 2023年1月20日号
- 2023年1月13日号
- 2023年1月6日号
- 2022年12月23日号
- 2022年12月16日号
- 2022年12月9日号
- 2022年12月2日号
- 2022年11月25日号
- 2022年11月18日号
- 2022年11月11日号
- 2022年11月4日号
- 2022年10月28日号
- 2022年10月21日号
- 2022年10月14日号
- 2022年10月7日号
- 2022年9月30日号
- 2022年9月23日号
- 2022年9月16日号
- 2022年9月9日号
- 2022年9月2日号
- 2022年8月26日号
- 2022年8月12日号
- 2022年8月5日号
- 2022年7月29日号
- 2022年7月22日号
- 2022年7月15日号
- 2022年7月8日号
- 2022年7月1日号
- 2022年6月24日号
- 2022年6月17日号
- 2022年6月10日号
- 2022年6月3日号
- 2022年5月27日号
- 2022年5月20日号
- 2022年5月13日号
- 2022年4月29日号
- 2022年4月22日号
- 2022年4月15日号
- 2022年4月8日号
- 2022年4月1日号
- 2022年3月25日号
- 2022年3月18日号
- 2022年3月11日号
- 2022年3月4日号
- 2022年2月25日号
- 2022年2月18日号
- 2022年2月11日号
- 2022年2月4日号
- 2022年1月28日号
- 2022年1月21日号
- 2022年1月14日号
- 2022年1月7日号
- 2021年12月24日号
- 2021年12月17日号
- 2021年12月10日号
- 2021年12月3日号
- 2021年11月26日号
- 2021年11月19日号
- 2021年11月12日号
- 2021年11月5日号
- 2021年10月29日号
- 2021年10月22日号
- 2021年10月15日号
- 2021年10月8日号
- 2021年10月1日号
- 2021年9月24日号
- 2021年9月17日号
- 2021年9月10日号
- 2021年9月3日号
- 2021年8月27日号
- 2021年8月20日号
- 2021年8月6日号
- 2021年7月30日号
- 2021年7月23日号
- 2021年7月16日号
- 2021年7月9日号
- 2021年7月2日号
- 2021年6月25日号
- 2021年6月18日号
- 2021年6月11日号
- 2021年6月4日号
- 2021年5月28日号
- 2021年5月21日号
- 2021年5月14日号
- 2021年4月30日号
- 2021年4月23日号
- 2021年4月16日号
- 2021年4月9日号
- 2021年4月2日号
- 2021年3月26日号
- 2021年3月19日号
- 2021年3月12日号
- 2021年3月5日号
- 2021年2月26日号
- 2021年2月19日号
- 2021年2月12日号
- 2021年2月5日号
- 2021年1月29日号
- 2021年1月22日号
- 2021年1月15日号
- 2021年1月8日号
- 2020年12月25日号
- 2020年12月18日号
- 2020年12月11日号
- 2020年12月4日号
- 2020年11月27日号
- 2020年11月20日号
- 2020年11月13日号
- 2020年11月6日号
- 2020年10月30日号
- 2020年10月23日号
- 2020年10月16日号
- 2020年10月9日号
- 2020年10月2日号
- 2020年9月25日号
- 2020年9月18日号
- 2020年9月11日号
- 2020年9月4日号
- 2020年8月28日号
- 2020年8月21日号
- 2020年8月7日号
- 2020年7月31日号
- 2020年7月24日号
- 2020年7月17日号
- 2020年7月10日号
- 2020年7月3日号
- 2020年6月26日号
- 2020年6月19日号
- 2020年6月12日号
- 2020年6月5日号
- 2020年5月29日号
- 2020年5月22日号
- 2020年5月15日号
- 2020年5月1日号
- 2020年4月24日号
- 2020年4月17日号
- 2020年4月10日号
- 2020年4月3日号
- 2020年3月27日号
- 2020年3月20日号
- 2020年3月13日号
- 2020年3月6日号
- 2020年2月28日号
- 2020年2月21日号
- 2020年2月14日号
- 2020年2月7日号
- 2020年1月31日号
- 2020年1月24日号
- 2020年1月17日号
- 2020年1月10日号
- 2020年1月1日号
- 2019年12月20日号
- 2019年12月13日号
- 2019年12月6日号
- 2019年11月29日号
- 2019年11月22日号
- 2019年11月15日号
- 2019年11月8日号
- 2019年11月1日号
- 2019年10月25日号
- 2019年10月18日号
- 2019年10月11日号
- 2019年10月4日号
- 2019年9月27日号
- 2019年9月20日号
- 2019年9月13日号
- 2019年9月6日号
- 2019年8月30日号
- 2019年8月23日号
- 2019年8月9日-16日号
- 2019年8月2日号
- 2019年7月26日号
- 2019年7月19日号
- 2019年7月12日号
- 2019年7月5日号
- 2019年6月28日号
- 2019年6月21日号
- 2019年6月14日号
- 2019年6月7日号
- 2019年5月31日号
ご挨拶
まんまる新聞をいつもご愛読いただき本当にありがとうございます。
まんまる新聞は江別市と厚別区(清田区平岡公園東、北広島市西の里・虹が丘を含む)各地区の200人余りの配達スタッフが住宅と店舗、会社事務所に一軒一軒余すところなく配達しております。
無料でお届けできるのは広告をお載せいただいたり、チラシを折込みくださるスポンサー様のご支援によるものです。
皆様にご愛読いただき、また多くの方々が広告の掲載、チラシ折込PRにご活用いただいて、今後とも週刊「まんまる新聞」の発行運営にご理解ご支援を賜りますよう、平にお願い申し上げます。
発行/毎週金曜日
配達/基本木曜日(予備日金曜日)
大判ブランケット
(406.5㎜×534㎜)
4~8ページ
カラー(一部モノクロ)