使いかけの洗濯用粉石けんの箱をいきなり差し出して、「この石けん余っているから使って…」と、隣のアパートの80代にはなろうおばあちゃんが事務所を訪ねて来たのは、ある夏の日だった。“受付嬢”を兼ねた古参の女性社員はおばあちゃんの言う意味がわからず、キョトンとしながら取り次いだ。おばあちゃんとの付き合いはそれから数年におよぶ▼古くなってかたく固まった粉石けん…。口数少なくぼそぼそと話すおばあちゃんの話を聞くうちに「ああ」と思い当たる節があった。昨日夕立が降った時に「夏の雨は気持ちがいい。体を洗ったらさっぱりするかもしれないから、石けん持って外に飛び出したい」などと大声で話したのを思い出した。窓を開けていたから、そんな会話を耳にはさんで石けんを持って来てくれたらしい…▼おばあちゃんは厚別駅によく行って座ったりしていたが、たまに、「100円貸してほしい」と事務所を訪ねて来るようになったと、当時、60代半ばだった“受付嬢”が笑いながら言う。なぜか、決まって100円なのだという。世間話を交えながら、はい、どうぞと貸す。そのうち律儀に返しに来る。「返しに来るのが、楽しみなのかしら…」。ある時、病院の看護師から電話がかかってきた。身内のことを聞かれて「まんまる新聞の受け付けをしている女の人」に連絡すればわかると伝えたらしい。別に暮らす娘さんがいることは聞いていたが、本当のところ名前もわからない。病院にはそう伝えるしかなかった…。冬になって、駅の方からおばあちゃんが歩いてくるのを窓から見つけた。と、歩く姿が何だか危なっかしい。そのうち、へなへなという感じで歩道の雪道にへたり込んだ。そばに駆けつけたが立つことができない。急いで、救急車を手配した。その後は姿を見かけなくなった▼人付き合いが苦手そうだった。事情があってか、ぎりぎりまで独り暮らしを続けた。粉石けんや100円は、人との触れ合いを探し求めた「縁の糸」だったのかもしれない…。
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