国際ジャーナリスト・堤未果氏の緊急リポートに「日本が売られる」(2018年幻冬舎新書)がある。〈あらゆる公共サービスを民営化〉という日本政府の政策で、水や米、海や森や農地、国民皆保険に公教育に食の安全に個人情報など、日本が誇る貴重な資産に値札がつけられ、叩き売りされている“実態”を報告したものだ▼安倍晋三首相が力を入れる国家戦略特区構想。名乗りを上げた大阪市(橋下徹市長当時)では、特区の民営化リストに“公立学校”も入れた。同書によると――日本の「学校教育法」では、公立学校は自治体が運営し、そこでの教育は公務員が行うことになっているが、国家戦略特区内で設置された公設民営学校は自治体が所有し民間が運営する。大阪府の非正規雇用率は現在中学校だけで41・3%だが、今後国家戦略特区法を使って設立した公設民営学校で働く教職員と事務員は100%非正規労働者になる。公務員ではないので憲法第99条の「憲法尊重擁護義務」も適用されない(同186~187P)――。憲法第89条では教育を公共のものと定めている。アメリカでは、「学校の民営化」を通して、単なる公立校の数や教員、教職員組合だけでなく、公教育が持つ「公共」という目に見えない資産も失われつつあるという▼萩生田光一文科相の「身の丈に合わせて」発言で、延期が発表された大学入試の英語民間試験。受験会場が少なく高額で、金持ちほど都市部ほど有利になる不公平な試験制度なのに、文科省は強引に押し通そうとした。この問題を審議した衆議院予算委員会で、「教育の分野に市場原理や民営化といった考え方を過度に入れることは問題」との指摘に、安倍首相は「民間がやると悪くなる、民間は邪(よこしま)だという考え方はとらない」と述べ、民営化に固執する姿勢を見せた▼長期の計画で、1度や2度の後退は織り込み済みだろう。既成事実を積み重ね法律が変えられればしめたもの。“岩盤規制”に穴が開く。こうした過程を経て、「日本が売られる」のかもしれない…。
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